ヘアードライヤーの間違った使用方法による事故について国民生活センターが行った注意喚起が話題だ。
髪の毛が吸い込み口から吸い込まれて焦げるという問題もあるが、話題が集中したのは電源コードの取り扱い方法の問題である。
ドライヤーを片付ける時に、長いコードを本体にぐるぐる巻きつけてしまうのが原因でコードの付け根が傷んでしまい、そこから発熱やショートが起きて発火事故に至るという話だ。
確かに取扱説明書を読むと、コードを本体に巻き付けてしまわない旨注意書きがある。
参考:
ヘアードライヤー ナノケア EH-NA28 取扱説明書 | ヘアーケア | Panasonic
だが、ヘアードライヤーのようにスイッチさえ押せば取り合えず使えてしまう家電を、わざわざ説明書を読んでまで使う真面目な人間はむしろ少ないのではないか?
勿論こうした消費者の行動は決して褒められたものではなく、それだからこそ国民生活センターが注意喚起したとも思われる。
しかし、逆に考えれば人間あるいは消費者というのは、そもそも不真面目かつ愚かな存在であり説明書など読んではくれない。説明書など読まなくても問題なく使える商品を提供できなかったメーカーにも責任があると考えることも可能だろう。
現在売れ筋の一般的なヘアードライヤーの消費電力は1200W以上という大電力であり、それゆえコードレスは不可能、長い電源コードが不可欠である。
その前提があり、尚且つ本体にコードを巻き付けてしまうと危険と知っていながら、家電メーカーはコードの処理に何らアイデアを盛り込まずに次々と新商品を送り込んできたわけだ。そのような姿勢だから、起こるべく起きた事故といってもよいだろう。
だが、そんな家電メーカーもかつては、電源コードに気を使ったヘアードライヤーを売っていたこともあった。
これは自分が愛用しているヘアードライヤーで、Panasonicの前身ブランドNationalの1990年製商品だ。
大風量を送り出せるターボスイッチ付きで消費電力は1200Wと、現在の売れ筋と変わらぬ性能がある。26年も前の製品だが、何のトラブルもなく使い続けてきたお気に入りだ。
一目で分かると思うが、電源コードがカールコードになっている。それゆえ、コードを本体に巻いたり束ねたりしなくても邪魔にならず、コンパクトに収納できる。
普段はやらないが、カールコードはソケット式で本体と分離出来、本体は折り畳み可能だ。購入した当時は度々バイクで泊りのツーリングをしていて、荷物をコンパクトにまとめる為このドライヤーを選んだのだ。
本体を折りたためるドライヤーは今でも売っているが、コードを取り外せるドライヤーは皆無だろう。
コードの分離は無理でもカールコードのドライヤーくらい今でも売っているだろうと、Amazonを検索したが見つからない。というか、サイトの写真を見てもコードがどうなっているかなんて、全然わからない。
こんな本体だけで、コードの根元でバッサリ切られた写真がならんでいたって、分かるはずがない。そこで検索語にカールコードと追加すると、以下の物が見つかる。だがメーカーのサイトに行って調べるとカールコードではない。
TESCOM ione マイナスイオンヘアードライヤー ホワイト TID955-W
- 出版社/メーカー: テスコム(TESCOM)
- 発売日: 2013/01/21
- メディア: ホーム&キッチン
- この商品を含むブログを見る
テスコム、小泉、パナソニックのメーカーサイトに行ってみたが、カールコード仕様のドライヤーは見つからない。いや、パナソニックにはあった。
ホテル仕様の壁に据え付けるタイプのドライヤーだ。だが、一般の個人がこんな物を欲しがるだろうか?
とにかく、コード分離どころかカールコードのドライヤーというものは市場から消えていた。
カールコードがダメなら、それに代わるコード収納の画期的アイデアを採用したドライヤーがあるのだろうか?もしそうなら、それは技術革新であり、カールコードのドライヤーにこだわる理由はなくなる。
だが、調べてみれば直ぐ分かることだが、そうした製品もないのだ。アピールされるのはマイナスイオンだ、ナノイーだ、プラズマクラスターだと、効くか効かないか分からないオカルト効能*1だったり、風量の強さやオサレなデザインだけである。
一体どうして、こういうことになってしまうのか?
取扱説明書にコードを本体に巻き付けるのは危険と明記しながら、手早くコンパクトに片付けるには本体にコードを巻き付けざるを得ない商品を平気で市場に送り出すのは、メーカーとして怠慢ではないのか?
怠惰怠惰怠惰、あなた怠惰ですー!
と、どっかのアニメみたいに叫びたくなる。
想像でしかないが、ヘアドライヤーに関心があるのは若い女性層が大半、後は適当に使えればいいと考える層によってユーザー層が形成されているのだろう。偏見ではあるが、若い女性層は「わたし機械の難しい事はワカンナーイ」といった調子だろうし、後の使えれば良しの層も関心が薄いだけに説明書も真面目に読まない層と考えられる。
そうした層にコードの収納という実用的で地味なアピールをしても関心を持たれないし、実際そうだったのだろう。
あるいはデフレ経済の影響、安物を安く売って、すぐ壊れても修理するより買い直せば良いとする、正に消費こそ美徳という風潮がそうさせたのか?
カールコードはストレートコードより高くつく。分離式でコードが別売りされていれば、傷んでもコードの交換だけで済むのに、そうすると本体を買い替えてもらえないのでメーカーは新製品が売れなくて儲からない?
お客様は神様ですといいながら、目立たない部分で手を抜いているメーカー。
メーカーの言う目立つ特徴ばかりに騙されて、実用面に目を向けないユーザー。
鶏が先か卵が先かわからないけれど、豊かに見えてお粗末な製品が量産されるさまは、消費社会の矛盾ではないのか?
先日も、長く使用した古い傘に代わって、新しい物を購入しようとして苦労した記事を書いたばかりである。
ショッピングサイトを見て回った限り、もし今愛用しているヘアードライヤーが壊れてしまっても同様の品を見つけられそうにない。
物があふれている社会、消費社会というのに、何とも納得がいかない話である。
*1:自分自身はナノイーもプラズマクラスターも、効くと信じているがw