スネップ仙人が毒吐くよ

50代ひきこもりの独白記


F-1のデザイン、速さの秘密と誤解 その3

前回、F-1のデザインはFIA(国際自動車連盟)が定める規定による制限が生み出したものであると説明した。 

snep1000.hatenablog.com

 

規定による制限が生み出したデザインの最たる物は、近年出現して物議をかもした

ち〇こノーズである。

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形状については上記リンクの写真の通りで全くみっともないのであるが、その形状が生まれた原因については、全く間違っている。

これは風を、下に多く取り込むと同時にディフューザーという後部の空気を吸い出すような形状のシャシーを設計する(飛行機の翼の逆バージョンの流れの状態を起こす)ことで、よりダウンフォースが発生するという仕組みでした。ですから、各チームはノーズの位置を高く保っていたかったのです。

そう考えると、少し現在のフォルムは空気の流れの効率が悪いのです。しかし、スピードが出すぎるという理由で禁止されましたし、ドライバーの視界を確保すると言う意味でも、このノーズを下げるというレギュレーションが維持されています。

ノーズが高くなった理由は、前回その2で自分がティレル019を例に説明した通りで、あっている。

ところが、ノーズを下げさせた(正確にはノーズ先端)本当の理由は、空力を悪くしてスピードを下げさせるのが目的ではなかった。結果的には、その効果もあるが、別の理由である。

ティレル019はハイノーズの先駆けではあったが、ノーズ先端の高さは控えめで、ドライバーが着座するコクピットの中間ほどだった。ところが強力なダウンフォースを発生するには、前方から床下に取り込む空気の量は多ければ多いほど良いわけで、ノーズの高さは年々高くなり、ついにはドライバーの目線と同じ高さにまでなってしまった。

Ferrari F1 150° F2011 1/43 Italia F. Massa #6 - Hot Wheels Diecast Models Hot Wheels Diecast Cars 並_行_輸_入_品

例えば2011年モデルのフェラーリ 150だが、コクピット開口部前端からノーズ先端まで、ボディ上面がほぼ水平になっていることがお分かりだろうか。

こうなると、単にスピードが速いから危険という以外に、別の危険性が指摘される事となる。レースは、なるべくあってはならない事だが、接触事故がつきものである。

もし、前走車が何らかのトラブルで横向きに道を塞ぐように止まってしまったら?

後走車のノーズ先端はどこへ向かって突っ込んでいくだろうか。

運が悪ければ、ドライバーの頭部を直撃するのではないだろうか。想像するに恐ろしい事態である。また前走車ドライバーへの直撃は避けられたとしても、ノーズが前走車ボディ上面に乗り上げてしまえば、後走車も無事では済まない。スピードがついているのでジャンプ台と化して勢いよく飛び立ってしまうだろう。

 

もうお分かりだろう。ノーズの先端位置を下げるように規定が改訂されたのは、衝突安全対策だったのだ。

ノーズを下げると、先端はコクピット横を襲う事になるのだが、近年のF-1ではカーボンファイバーを用いた強固なモノコックフレームが採用されていて、厳しいクラッシュテストも課されている。ドライバー横には幅広のサイドポンツーンも存在するので、コクピット上面にノーズが乗り上げるより安全なのだ。

 

真面目に規定を守ると、空気を前方下から取り込む流路幅が狭まりダウンフォースが減少する結果となるが、マシンデザイナー達は抜け道を見つけ出した。

それは、フロントウィングの取り付けステーをやや後退させ、それより前方の、規定で必要最小限とされる太さのノーズ先端だけを下に垂らす事だったのだ。

 

更にいうなら、実は2014年よりも前に、ノーズ先端を下げる規制はあって、2012年には段差ノーズというものが流行したのである。

 

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この時の規制はノーズ取り付けの基部であるサスペンションアームの付け根の位置を下げるもので、FIAはここからなだらかにノーズの先端が下がっていくことを期待したが、マシンデザイナー達は上面に段差を付けて対抗した。これでも分かるように滑らかな形による空気抵抗の低減より、ボディ下面により多くの空気を流してダウンフォースを獲得する方が、F-1にはメリットが大きいのである。

 

なお、ち〇こノーズという俗称は極めて下品であり、お上品な紳士はアリクイノーズと称している。

また、ドライバーの首狩り対策としては、コクピットのクローズド化の議論や防護バーを設置するテストなども行われているが、レーシングカート上がりのドライバー達*1はあまり乗り気ではないようだ。 

 

FIAの規定改訂が及ぼす影響は、もちろんノーズデザインに留まらない。

近年のF-1では、タイヤ幅や直径も固定されていて、全チーム同じ特定のタイヤメーカーによる1社提供である。タイヤ性能を規制して、速すぎるコーナリング速度にさせない為、また全チーム条件を揃える為の規制だ。かつての超ワイドタイヤの方がカッコ良く見えるが、デザイナーの好きにはできないのだ。

タイヤの幅も狭くなったが、車幅自体も狭くなって、細長い印象になった*2。これも、コーナリングではトレッド(左右のタイヤ間の距離)が広いほうが、横方向に踏ん張りが効くので有利だが、コーナリング速度を遅くするために規制されているのだ。

毎年、速く走らせたいマシンデザイナーと安全規制を掛けてくるFIAとのイタチごっこなのである。

規制の穴を見つけて進化を続けたのが、今のF-1のスタイルであり、決して速さ優先だけでデザインされたのではない。そうした、やり取りを追うのも、モータースポーツの楽しみの一つである。 

*1:彼らは一般乗用車ベースのツーリングカーのレースは経験しないで、免許のない少年時代からゴーカートのレース仕様で経験を積み、フォーミュラーカーにステップアップする場合が殆ど。オープンホイール単座というスタイルは常に変わらず、運転感覚が似ているので、屋根付きを運転しろと言われても戸惑いを感じるのだ。

*2:1993年以前は最大幅2015mm、1998年以降は1800㎜