スネップ仙人が毒吐くよ

60代独身じじぃの独白記


F-1のデザイン、速さの秘密と誤解 その2

さて、前回の続き。前回はタイトル詐欺で、F-1のデザインに触れることができなかった。今回が本番である。

snep1000.hatenablog.com

F-1のデザインというと、皆さんは何を思い浮かべるだろうか?

前後のウィング?オープンで単座席のコクピット?剝き出しのタイヤとホイール?

これらのデザインはFIA(国際自動車連盟)が定めるルールに則ったものであり、彼らが様々なレースカテゴリ―用に規定した車種のひとつがF-1なのである。

モータースポーツはルールのある競技であり、漫画や映画で描かれるような、とにかくどんな車種でも、無制限に速く走れるように作って、1位になれば偉いという世界ではない。

素人の議論で陥りがちなのは、ルールを忘れていることであり、それによってF-1は4輪レースで最速カテゴリーなのだから、あの形が最速のデザインであると誤解するのだ。

あくまで、あのデザインであるのはルール内で競い合った結果でしかないのだ。

現状のルールを無視して、デザイナーが自身の考える最速車の理想を追えば、もっと違った形の車が出来上がるのである。

その典型のひとつがレッドブル X2010である。

 

AUTOart オートアート・アウトレット 1/18 レッドブル X2010 S.ベッテル 完成品

 

レッドブル・X2010 - Wikipedia

単座コクピットでミッドシップエンジンの4輪車という共通点を除けば、ゴチャゴチャした空力デバイスが整理されて、スムーズな流線形が美しいすっきりしたデザインのマシンとなるのである。

これに比べれば、現在のF-1マシンのデザインは、奇形的進化を遂げたゲテ物である。

 

話を元に戻そう。

前後のウィング?オープンで単座席のコクピット?剝き出しのタイヤとホイール?

これらの特徴をもつマシンは、モーターレースカテゴリーではフォーミュラマシンと呼ばれ、その中のトップカテゴリーがF-1なのである。また、ウィングは必須ではなく、過去にはF-1にウィングはなかったし、下位入門クラスではFJのように禁止されているフォーミュラマシンもある。

ちなみにフォーミュラとは規定という意味なのだ。

だから、現在のF-1のあのデザインを生み出しているのは、速さの追求である前に規定なのだ。

 

F-1と空力の関係を説明すると、初期にはできるだけボディ―を細く作って、抵抗を少なくしようという考えだった。

タミヤ 1/12 ビッグスケールシリーズ No.32 ホンダ RA273 エッチングパーツ付 プラモデル 12032

いわゆる葉巻型である。しかし、いくらボディを細くしても、タイヤがある限りそれが抵抗となってしまう。既定ではタイヤを流線形のカバーで覆うことは許されていない。技術の進歩でタイヤは太いワイドタイヤになって、ますます抵抗は増えてしまう。

空気抵抗が増えてしまうと何が起こるのか?

そう、最高速度が出なくなってしまうのだ。

ここで、前回の記事の話が生きてくる。つまり、最高速度を伸ばすことを見限り、サーキットでは延々直線が続くわけではないのだから、ある程度の速度が出れば十分という考えに変わっていったのだ。

最高速度が出ないなら、どこでタイムを稼ぐのか?サーキットレースで重要なのは最高速度ではなく、1周のラップタイムである。

必然的に、カーブで速度を落とさずに曲がれるならタイムが稼げるという計算になる。そうして発明されたのがウィングなのである。

ウイングを付けてしまうと、下向きのダウンフォースが発生する代わりに、前向きの抵抗、つまりドラッグが生じてしまう。

しかし、元々タイヤによる抵抗で、最高速度を見限っているので、少々ウイングで抵抗が増えたとしても、コーナーリング速度が速くなるメリットの方を取ったのである。

 

ウイングを導入して間もない頃は、エンジン出力が十分でなく、それでも空気抵抗を減らそうという努力が見られた。

タミヤ 1/12 ビッグスケールシリーズ No.36 1/12 タイレルP34 シックスホイラー エッチングパーツ付き 12036

 

有名なティレルの6輪車は、スポーツカー風の流線形ノーズに、小径にしたタイヤを隠れるように配置することで、空気抵抗を減らそうとした発想である。しかしながら後輪は大きくはみ出していて、無駄なあがきというものだった。

また、ウイングカーというアイデアもあった。

 

エブロ 1/20 チーム ロータス タイプ 88B 1981 プラモデル 20010

 

後付けのウイングではなく、ボディそのものにウイングを内蔵させたほうが、より効率的で抵抗が少ないわりに高いダウンフォースが得られるという発想である。しかし、車高を常に一定に保たないと、ダウンフォースの強さが急激に変化し、突然ダウンフォースを失ってコースアウトする。そればかりか、裏返しになって空高く舞い上がってしまうなど、危険な代物であったため禁止された。

 

その後、1.5Lターボ時代になると、最高速度は抵抗を減らすのではなく、有り余るパワーで押し切るという考えが支配的になり、抵抗になるウイングは巨大化した。

 

EIDOLON FORMULA 1/43 マクラーレン ホンダ MP4/4 日本GP ウィナー No.12 アイルトン セナ ワールドチャンピオン 再販

 

マクラーレン・ホンダ MP4/4であるが、フロントはともかく、リアウイングは衝立のような一枚板のフラップを急角度で立て、抵抗を減らすよりも無理やりリアタイやを押し付けようとするデザインである。この頃は予選で1500馬力というモンスターパワーを誇っていたからできた形である。

 

3.5L自然吸気エンジンに規定が改訂されると、パワーが半分ほどに制限されてしまったので、再びダウンフォースを重視しつつも空気抵抗を減らそうとする努力が図られることとなる。特に下位チームはトップチームほどパワフルなエンジンは得られず、ドラッグ低減が死活問題だった。

GP Car Story vol.04 ティレル019・フォード (SAN-EI MOOK)

下位チームに沈んでいたティレルが選んだアイデアが、今日まで続くハイノーズである。

ウイングカーは禁止されたが、規制は限定的なもので、車体自体をウイング形状にしてはいけない部分は前後のタイヤに挟まれた中央のみだった。つまりそれより外側の車体前端と後端を跳ね上げれば、全体としてはウイング断面が形成される形となる。

後端の方は多くのチームで、跳ね上がったリアディフューザーが採用されていたが、フロントについては手つかずだったのだ。

後ろはともかく、細い幅のフロントノーズを高くすることは効果があるのか?その辺に疑問があったのでトライが遅れたのかもしれない(真相は知らない、自分の想像だ)。

ともかく試してみると、細い幅でも両脇から大量の空気が押し込まれて、中央の車体底面では急激に流路の上下厚が狭まり、車体後端では出口が広がって速やかに空気が抜けていくので、強力なダウンフォースが発生するのだ。

車体自体がダウンフォースを得られれば、抵抗の大きなウイングを小さめの物で済ますことができる。抵抗が減れば低出力のエンジンでも、高出力のエンジンを使うトップチームの最高速度に並ぶことができるという塩梅である。

 

話がまた長くなってしまった。2話で納めるのは無理なようである。

その3に続く。

F-1のデザイン、速さの秘密と誤解 その3 - スネップ仙人が毒吐くよ