昨年末、昨日と、どうにも自分的には納得できない作品ばかり観てしまったので、確実に名作といえる映画を観たかった。
本日セレクトしたのは、オーソン・ウェルズ監督・主演の市民ケーンである。
映画ファンの間ではよく知られた作品で、今更取り上げるのも気恥ずかしいところだが、実際観るのは今回が初めてだ。
オーソン・ウェルズ氏も、名優・怪優として、ラジオドラマで宇宙人襲来のパニックを引き起こすなど、伝説的な人物として名前だけは知っていたが、恥ずかしながら何も作品を観たことがなかった。
果たして、どれほどの名作であるのか?
上記作品のように裏切られてきただけに、これでも懐疑的だったのだが……
紛うことなき名作だった。
ネタばれを避け、導入部だけ説明する。
怪しい雰囲気の古城で、一人の老人が
「Rose Bud」(薔薇のつぼみ)
という謎の言葉を残して世を去る。
彼はアメリカの大富豪、新聞王チャールズ・F・ケーンであった。
彼が息を引き取った古城は、彼の邸宅ザナドゥだった。
彼の死を伝えるニュース映画の試写で、記者のトムスンは上司より「薔薇のつぼみ」の意味を調査するよう命令される……
ヤバい、この時点で興味深々である。
1941年公開の古い映画で、モノクロだとか新聞王とか時代背景が古いとか色々あるが、そんなものは関係なしに引き込まれる。
個人的というか、ほとんどの人がそうだろうが、つかみが弱いと後が続かない。
満点のつかみである。
どうやら、上で個人的に評価が低かった作品は、つかみで既にダメだった。
ただし、つかみも個人の趣味に左右される。ミュージカルに興味ないとか、パワハラは見たくないとか、悠長なしゃべりのキャラは嫌とか、そういうのが障害だったのもある。
だから、市民ケーンも、若い人にはただ古臭くて見づらい映像ということで、受け入れられない可能性もあるだろう。
人によっては、映画は劇場で大画面で観ないと駄目という意見もあるが、当方はモノクロでも平気だし、画面が小さかろうが、画質が少々悪かろうが、全然気にしない質である。何せVHSレンタル・ダビング世代なので。
導入後は、記者のトムスンが、ケーンの関係者を訪ね、各人の回想録として時代をさかのぼってケーンの人生が描かれる構成である。
今となっては珍しくない構成であるが、時系列順に物語が進まないこの手法は当時では斬新なものだったようだ。
つまり主演のケーンを演じるオーソン・ウェルズは25歳の青年期から晩年の70代の老人までを一人で演じている訳だ。
しかも観ているときは知らず、後で調べて分かった事だが、当時この映画を撮影した時点で彼の年齢は25歳だった。
観ているときは40歳ぐらいの俳優が若作りして20代を演じ、70代までやったのだと思ったのだが、彼はそれよりずっと若かったのである。
実年齢と同じ青年期の演技はともかく、20代で70代の老人の役を全く不自然さを感じさせることなく演じているのは驚異的である。ハリウッドの特殊メイクのレベルの高さがあったとしても、すごい演技力だ。名優・怪優という評価もうなずける。
以前レオナルド・ディカプリオがアビエイターで、青年期から晩年までのハワード・ヒューズを演じていて感心したが、ウェルズの方が一枚上手であるように感じられた。
この演技力の高さも、本作の大きな魅力であるといえよう。
そして謎の言葉「薔薇のつぼみ」が物語を引っ張る仕掛けのたくみさで、最後まで興味が尽きない。
最後の最後でそれが何か分かることになるが、その伏線は導入部のニュース映画の中にもちゃんと張られている。
なるほどと唸らせられる素晴らしい脚本である。
それにしても弱冠25歳で監督・主演とは凄まじいほどの大天才である。ラ・ラ・ランドのチャゼルは2009年24歳で監督・脚本デビューしたが、セッションでアカデミー受賞まで更に5年を要した。
市民ケーンはアカデミー9部門ノミネートで、脚本賞を受賞することになるが、当時実在の新聞王をモデルにしたことから、様々な妨害を受け、受賞は一つのみに留まり興行的にも成功したとはいいがたい結果に終わったようだ。
その後もハリウッドに嫌われてしまったのか?あまり作品に恵まれず、これほどの天才でありながら不遇な生涯を終えたように見受けられるのは残念である。
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