タイトルにはマイルドに「批判」と書いたが、これは根拠なき叩きだし、いじめだと思う。
18日NHKニュースが、我が国の子供の貧困の一例として、母子家庭の女子高生がデザイン系への進学をあきらめている事を伝えた報道で、背景に写った画材や趣味のグッズ類から、一部のネット民が「貧困ではない」と報道のねつ造を疑い、更には女子高生のTwitterからアニメグッズの大人買いやコンサートのチケット、レストランでの食事等の高額消費と思える事例を発掘したことから、炎上騒ぎとなっている件のことだ。
まず違和感を感じるのが、「PC買えなくてキーボードで我慢」の話。
ネット民は「PCなんか2万でも買える」と叩きまくっているが、この話は中学時代に彼女が自分の身に起きた体験として語っている事であって、PCがたとえ安く買える物だったとしても、その時に実際PCを買ってもらえずキーボードだけを母親から与えられたという事はおそらく事実であって、嘘ではないはず。
そうした体験があって「うちは貧乏かもしれない」とその時感じたことも恐らく間違いではないだろう。
他人がどう思おうと、彼女にとってはこれがきっかけだというなら、そういう事でしかない。
本当に思ったことを語って、何でこの女子高生が嘘つき呼ばわりされなければいけないのか?
たとえ、当時本当に2万円で買えるPCがあったとしても、彼女の母親は知らなかったのでキーボードを与えた。それは、責められることなのだろうか?
ネット民であれば簡単にアクセスできる安売りPCの情報も、インターネット自体見る事が出来ないこの母娘がどうして知ることができよう?
また、ネット民がいう2万円の根拠は、画材のサインペンセットが約2万円という事でしかない。
先にもいったように、キーボードで我慢した話は、女子高生が中学だった過去の話だ。
サインペンセットが本当に2万円する物だったとしても、当時買ったという証拠がないなら、全く意味の分からない批判だ。
その当時は本当に生活がギリギリで、2万円は無理で2千円がやっとだったのかもしれない。
その証拠がないのに、それを根拠に叩くのは全くおかしい。
そして、2万円のサインペンセットの話になるが、2万円のサインペンをあきらめればパソコン買えたはずって、それも全然おかしいでしょ。
彼女の趣味はイラストで、将来デザイン系へ進みたいって語っているのだから、第一に欲しいものは画材なわけで。
そりゃ、情強のネット民の知識だったら、今はデザイナーは全員パソコン持っててデザインはパソコンでやるのが常識みたいな認識だろうけど、彼女のいうデザイン系は、要は絵が描きたいって話で、スタートは鉛筆やペンでイラストを描く事だった筈。だから、最初に求めたのがサインペンだったとしても、何の不思議があるのか?
そのうち、彼女も将来を考えるに至って、イラストやりたいなら将来はデザイン系の学校かと、調べているうちに実はプロのデザイナーはパソコンがないと仕事にならないと知って、パソコンも買えないようじゃデザイン系に行くことも出来ないのかって、絶望しているのが現在なんでしょ。
ネット民はインターネットでフォトショップとかイラストレーターとか、デザイン系ソフトの情報はバンバン入ってくるし、素人でもソフトがあればある程度のことは出来て、デザイナーの底辺は仕事安く買い叩かれて泣いてるなんて話は、散々聞かされる話だけど、そもそもこの母娘はパソコン持ってなくてネットやってなかったわけでしょ。
今はスマホ持っててTwitterもやってるって事だけど、高校生のスマホって友人たちと繋がるためのコミュニケーションツールであるのが第一で、大人達のようにニュースを読んだり、どうでもいい世間の噂を知る事なんか二の次、三の次であって、知ろうとしなければ知らない事なんかいくらでもある筈。
叩いているネット民も、中高生の時から、そんなに世間の仕組みとか常識に興味があって全部最初から分かっていたわけじゃないだろうが。
進学や就職で、いろんな知識を得なければいけない機会があって、初めて真剣に向き合うようになった人間が多数派だろう。
むしろ、そういった社会常識は、学校教育で伝えていく事が重要で、そういった事を軽視してきた社会の被害者が、この母娘ではないのか?
ネット民の反応に、文句いいはじめたらキリがなくて長いけど、次いくよ。
Twitterから掘り出した散財の件。
デザイン系の進路考え始めて、パソコンが必須と知った後か先か知らんけど。その証拠もないのに、散財やめればパソコン買えた筈、なんていってんじゃないよ!
大体ね、デザイン系って事はクリエイターなわけでしょ。クリエイターっていうのは、インプットがないと新しい発想が出来なくて枯れちゃう人種だって、分かってて叩いてんのか?
イラストでも音楽でも、芸術ってヤツを志す人間はみな同じだと思うけど、10代の多感な時期に、いろいろなものを見聞きして体験する事が、将来の糧になるわけで、それを否定して我慢を強いる事自体が貧困の壁で、それこそが彼女の将来をつぶす事に他ならないのだ。
彼女はワン・ピースがお気に入りみたいだけどさ、それのグッズ集めて、真似してイラスト描いたりグッズを作ってみたら悪いのか?まんまパクリはいけない事だけど、最初は誰だって真似して上手くなるんだよ。
EXILEのコンサートは音楽だから関係ないのか?コンサートの振り付けやファッションに触発されて絵を描いてるイラストレーターや漫画家なんて世界中にごまんといるよ。中には音楽がきっかけで絵になる事も多々あるし、高額だっていうけど、一生もんの思い出になって、その後の人生に影響を与えるのだったら、この時期に見ておいて何が悪いのさ?
豪華なランチをしょっちゅう、しょっちゅうって何時なのさ。週末の土日に、友達と人気のレストランで会食なんて、高校生なら普通にあって良い生活。かわいい盛り付けの料理って、イラストやデザインのアイデアにもなるし、勉強になるともいえる。むしろ毎日食べた方が良いくらいだ。
散財だっていうけど、彼女はこれでもセーブしているはず。アルバイトしてても限りはあるし、コンサートもランチもこれくらいで満足はしていないだろう。
もっと見たい聞きたい知りたい、クリエイターだったら当たり前に持っている欲求だ。
それを我慢して、安物のパソコンを手に入れるのが正解なのか?
そんなものタダの箱を買うに等しい。
インプットがない空の人間が表現するものなんてない。
突然だが、上の写真は何か分かるだろうか?
エアブラシのハンドピースと呼ばれる高価な画材だ。右側の小さな入門用機種でも8千円。他のプロの使用にも耐える機種はどれも1万円以上の代物だ。
これ単体では機能せず、エアーを送るホースやバルブ、コンプレッサーが必要で、システムトータルでは最低3万以上となる。自分がこれを始めた1980年代は低価格のコンプレッサーに良い機種がなく、プロはカプセルコンという10万円以上の高価なコンプレッサーを使うのが常識だった。
1980年代といえばバブルであるが、20代だった自分は当時エアブラシでイラストを描いていた。当然プロになる為で、カプセルコンも欲しかったが手が出ず、最初はエア缶という高圧ガスを詰めた1本千円くらいのスプレー缶で、後に2万円くらいの安物のコンプレッサーを使用した。
バブル期であるから、割のいいアルバイトを見つける事に不自由はなかったが、生活はカツカツで、服はいつもジーンズにアディダスやチャンピオンの紺色のトレーナー、趣味はバイクだったが、15万で買った中古の型落ちの250㏄*1だった。
バイトは夜勤で効率よく稼ぎ、後はアパートにこもってイラストの練習と作品制作。たまに気晴らしで、中古バイクで山の方角にツーリング。バイクを贅沢という者もいるだろうが、当時は大学生がソアラやプレリュード、BMWといった具合で、中古のボロバイクで、着るものもジーパンのままで、どこが贅沢な物か。また、バイクはバイト先への足や日常の買い物にも重宝した。
それでイラストは何を描いていたというと、好きなバイクや車、セクシーなお姉さんだったが、てんで評価される事はなく行き詰った。そりゃそうだろう、世はバブル期、本物のスーパーカーや輸入バイクが街にあふれボディコンのお姉さんが闊歩しているというのに、よれよれのトレーナーの自分は、街に出て遊んだこともなく、見るものは雑誌等の印刷物じゃ、本物に迫り超える事なんか無理だもの。
無理して文化の集まる東京に上京したものの、住んでいるのは田舎の多摩地域、都心部に出かけるのも月に数回とか、せっかく良い展覧会やイベントがあっても、財布が寂しく殆ど見られず。観光や風俗に触れることもなく*2、夢破れて田舎に戻った。
長々と書いてしまったが、要は、無理して高価な画材(だけど安物)を揃えて頑張ったところで、インプットに手を抜かざる様な生活であれば、クリエイターとして成功するのは難しいんじゃないの?って話。
個人的には、失敗したのはもっと複雑な事情もあるけれど、それはまた別の話。
話を戻すが、件の女子高生が散財をやらずに、安物のPCを手に入れたところで何ら状況は変わらなかっただろう。
PCだけ手に入ったところで、出費はきりがない。2万のPC、恐らくはスティック型でディスプレイをTVで代用とか、3万円台のノートPCじゃ、デザインの使い物にはならないし、馴れるだけの練習でも、後から実用的な機種を買ったら二重投資で、逆にもったいない。それなら借金して最初からiMacでも買った方がいいわけで。
それで、インプットは実物買ったり体験するんじゃなくて、インターネットで我慢すれば良いと、ネットの人たちはそういいたいわけ?
大体問題はもっと根深いところにあって、何かを買わずに我慢すればPCを買えたとかいう枝葉の些細な話でなく、本音は貧乏人のくせに、絵だとかゲージュツだとか、金持ちの道楽みたいなものに、夢を持つなって事なんじゃないの?
自分も言われたよ、大して金持ちでもないのに夢を見るな、穀潰しだって。
だったら、学校でそういう教育をやったらどうなの?貧乏人は上を見て夢見ちゃいけません。音楽、美術、体育は勉強じゃありません、金持ちの道楽です、ってさ。
人は生まれたときは皆平等とか、君たちには無限の可能性があるとか、嘘ついて煽って、単なる道楽なら音楽、美術、体育はやらなきゃいいのに、今はダンスの授業まであるんでしょ。そんな夢を見せつけといて、いざ進路を決めようって時に、貧乏人が手を出したら贅沢だって、あんたら叩くわけだ。
NHKの報道はそういう世の中の現実を見ていて、貧困家庭には、道楽と思われている芸術だったりアスリートへの道が閉ざされていることを問題視して、ニュースに取り上げたのではないのか?
食べて生きているだけで、人間らしい生活といえるのか?文化的に満たされないのなら、それが我が国では格差ではないのか?そういいたいだけで、どこがねつ造なのか?
自分は自分が苦労して、失敗しているから、この女子高生がデザイン系の進路に拘るのはやめた方が良いと思う。でも、この子たぶん簡単には諦めないんじゃないのかな。
「あきらめたらそこで試合終了ですよ」
漫画ファンなら、知らない者はいないこのセリフ。
どれだけ多くの若者が、この言葉で引き際をまちがえて身を滅ぼした事だろうか?
罪な言葉だと思う。そう思う一方で、真に諦めなければ夢が本当にかなう世の中であって欲しいとの願望もある。
貧困家庭でありながら、金のかかる進路を選ぼうとする若者を叩く一方で、ネットでは常にイラストレーターやアニメーターが安く買い叩かれている現状を嘆く声も多い。
本当に金持ちの道楽なら、無給だって構わないだろう。
矛盾していないか?あなたたちは、金持ち?貧乏人?いったいどっちの味方なのか?